まるで、生音を聴いているかのようなサウンド。バックロードホーンスピーカーを手がける「長谷弘工業」
こんにちは。三条市ふるさと納税担当です。
当記事では、ふるさと納税の返礼品を提供いただいている市内企業を紹介します。
マニアも唸る。三条市発のオーディオメーカー
株式会社長谷弘工業(以下、長谷弘工業)は、新潟県三条市にあるオーディオメーカーだ。スピーカーづくりを手がけるようになって45年になる(2022年4月時点)。いまや「新潟のハセヒロ」と言えば、バックロードホーンの第一人者であるというほど、全国のオーディオ・ファンからの絶大な信頼を得るメーカーとなった。
「若い頃から何かを発明するのが好きだったんです。特許とか考えるの大好きでね」
そう話すのは、代表取締役社長の長谷川安衛さん。
もともとはハンドツールやフィットネス用ダンベルなどの製造を手がけていた長谷弘工業。
まったく関係のないスピーカーを事業化し、「オーディオのハセヒロ」として名前を高めることになったきっかけは、何だったのだろうか。
遡ること1970年代、新潟県内の発明家を志す有志が、当時長岡市にあった同好サークル「日本発明学校」に集い、日夜発明に明け暮れていた。その中に、若き日の安衛さんの姿があった。
「校長先生が、面倒見の良くて面白い人でね。コンクリートの塊をスピーカー化した箱を作っていたんです。それが、バックロードホーンだったんです。聴かせてもらうと、すごく迫力のある音がする。我々一同、なんだこれは?とビックリしちゃって。私も早速作ってもらうことにしたんです。コンクリートのスピーカーなんて、世界中探したってどこにもないぞ、と。こんなものを自分の会社で作れたら、どれだけ楽しいだろうと思ったんです」
そのことを校長先生に話すと快く承知してもらえた。しかし、そんな矢先に校長先生が急逝。1年間ほど喪に伏したが、安衛さんはスピーカー製作の夢を諦められずにいた。
「しばらく経ったあと、先生のご家族に連絡を入れると、資材やら工作機械やらを一式、貰い受けられることになったんです」
思わぬ形で先生の意思を受け継いだ形となった安衛さん。試行錯誤のスピーカー製作の日々が始まる。オーディオ専門店に通い詰め「もっと音を柔らかくしたいのですが」と尋ね歩くなど、情熱が日増しに高まっていった。
「はじめは泣かず飛ばず。オーディオ誌に広告を出したりすると、その時だけぽつぽつ売れる、という程度でしたね。すぐに事業化とまではいきませんでした」
しばらく経ったある日、スピーカーを購入した客から突如「コンクリートではなく木製にしてみたらどうだろうか」との提案が入る。
「当初、『木なんかでいい音を出せるわけがない』と思ったのですが、試してみないうちはわからない。思い切って一つ作ってみることにしたんです。いざ作ってみますと、これが意外と良い音を鳴らしたんですね。そこで木製で製品化してみようという話になりました」
ところが「はじめから完成品を作ったって売れるわけがない」と踏んだ安衛さん。はじめは完成品ではなく自作キットとして製品化することにした。
「試作品を持って秋葉原のオーディオショップに持ち込んだところ『これは面白いね!ぜひやりましょうよ!』と言ってくれて。そこから木での製作が始まりました」
しかし、木製バックロードホーンスピーカーも、発売当初はまったく売れなかった。
潮目が変わったのは、雑誌掲載だった。オーディオ誌の工作特集に取り上げられたところ、注文が一気に入るようになった。
90年代に入り、インターネットの登場によって、さらに注文が増加する。
当時はインターネットの黎明期。安衛さんの発明家の血が騒いだ。自ら参考書を買い求め、独学で勉強をし、ソフトを購入してホームページを立ち上げた。
「インターネットの登場は衝撃的でした。コンピュータ雑誌か何かで読んだ『アメリカの片田舎に住むおばあちゃんが自作した靴下を世界中に売ることができる』という話を目にして、これはすごい世界になったものだと大変感激しまして」
ところが、いざホームページを立ち上げてみても、思ったほど閲覧者数が伸びない。悩んでいたところ、友人の勧めでブログをスタートした。「じょんのび日誌」と題し、現在も更新を続けている。ブログを欠かさず更新するうちに、ファンがつき始めた。
「1日800人くらい見てくれていたのかなあ?そのころ、バックロードホーンと検索すると、うちしかヒットしなかったと思います。ブログを継続していくうちに、徐々に認知が高まっていくのを実感しました」
次第にスピーカー好きの輪が広がっていく。ユーザーからの意見を拾い上げ、新作の開発に生かし、さらにブラッシュアップを進める…というサイクルを生み出すことになる。
「スピーカーを買ってくださったお客様が、自分で『ハセヒロファンクラブ』を立ち上げてくれて(笑)新作を作るたびに駆けつけてくれたり、ときどき仲間を連れてきてくれたり」
バックロードホーンスピーカーを中心に、人の輪がどんどんと広がっていった。中には、音も聴かずに注文する客や、自分の行きつけのジャズ喫茶に置いてもらうよう働きかけてくれる客など、ここでもまた、熱烈なファンによる広がりを見せていく。
木製バックロードホーンスピーカーの真髄
バックロードホーンスピーカーの特長とは、いったいどのようなものなのだろうか。
一般的なスピーカーは、ふつう「密閉式」か「バスレフ方式」のどちらかの方式を採用している。簡単に言えば、スピーカーの後ろから出る音をはじめから塞いでしまうのだ。スピーカー後部から出る音をそのまま鳴らしてしまうと、低音が消えてしまう。後ろから出る音は邪魔だから、箱で包んで消してしまおうということになるが、どうしても箱の中で”箱鳴り”と呼ばれる残響が起こり、こもった音になってしまう。
一方、バックロードホーンスピーカーは、真逆の思想で製作されたスピーカーと言える。スピーカーのユニットから出た音と、後ろから出た音を減殺することなく、むしろ積極的に巻き込んで前方に音を届ける。
こもりのないクオリティの高い低音を出すことができるほか、特に管楽器などの伸びやかな音や、ボーカルの声の生々しさをより際立たせるなど「リアルな音」を出すとされている。
このときにポイントとなるのが、内部構造だ。ホーンの名が付くとおり、まるでラッパのような独特の形状をしている。開口部に向け、徐々に断面積が大きくなる構造が、上質な低音を生み出す。とりわけ、木板の積層方式による内部構造は、独特の音色を奏でる。
板を4枚同時加工できる機械を使い、丁寧に切り抜き、仕上げていく。
「シンバルの音が聴こえるぞ」。ジャズバーでの運命的な出会い
ハセヒロのバックロードホーンスピーカーの魅力をあらわすエピソードがある。
都内で開催されているオーディオフェアーに新作のジャズ専用バックロードホーンスピーカーを持ち込んだ安衛さんは、その人気ぶりに驚いた。
「人だかりができるほど、聴いてくれる人が集まってきたんです。その中に『著名なジャズ評論家で、ジャズバーを経営している知り合いがいるから、ぜひ店に持っていってみてくれないか』という方がいたんです」
すぐに都内にある、30席ほどのジャズバーを訪れた安衛さん。持ち込んだバックロードホーンスピーカーがジャズを鳴らす。
「すると、それを耳にしたオーナーが『おいおい、なんだこのスピーカー。シンバルが聴こえる。ハイハットまでしっかり聴こえるじゃないか!こんなスピーカー、俺は初めて出会ったぞ」なんて言ってくれてね。その場で注文してくれたんです。しかも、特注カラーのオーダーまでしてくれて。あれは嬉しかったなあ」
「シンバルが聴こえる」。
ジャズ用スピーカーを開発した安衛さんにとって、最上級の褒め言葉だった。
女性ヴォーカルが耳元で囁くかのような極上の音
バックロードホーンスピーカーの理想的な音とは、果たしてどのようなものなのだろうか。
安衛さんは、それを「女性ヴォーカルがまるで耳元で歌ってくれているかのような聴かせ方のできるスピーカー」と表現する。
「迫力ある重低音が出るとか、周波数特性が優れているとか。そういったことも、もちろん大事です。しかし、それよりも、歌手や演奏者のリスナーに伝えたい想いが『聴こえる』ということ。まるで、生の音を目の前で聴いているように思えること。そこにこそ価値があるのだと思って製作しています」。
写真・文章:竹谷純平
長谷弘工業のバックロードホーンスピーカーは三条市のふるさと納税返礼品として採用されています。下記サイトよりご寄付のお申し込みができますので、ぜひよろしくお願いいたします。