鍛冶職人を目指して三条に移住。ものづくりのまちは、ここがちがうんです! 【移住者インタビュー】
今回ご紹介するのは埼玉県から新潟県三条市に移住し、㈲平(たいら)木鋏製作所で木鋏鍛冶の修行に取り組んでいる秋元純也さんです。
小さい頃からものづくりが好きだった秋元さんは中学生のある日、本に載っていた鍛冶職人の写真に目を留めます。炎に向かい、ものづくりを背中で語るかのような姿に心を捉えられ、鍛冶職人を目指そうと決意します。
秋元さんは工業高校を卒業し、金属製品を製造する企業に勤務しながら、長期休暇は福井県越前市や岐阜県関市など刃物の産地巡りへ。そして三条市を訪れたとき、ある職人が作った刃物に衝撃を受けます。それは作り手の生き様が反映された芸術のように思え、魂が込められていると感じました。
そこで秋元さんは三条市で職人となることを目指し、2017年、22歳で越後三条鍛冶集団研修制度に合格。親方である木鋏鍛冶の伝統工芸士・平 孝行さんのもとで5年の研修を行い、終了した現在も、修行を続けています。
木鋏鍛冶の魅力と、日常の冒険について
「庭師が使う木鋏は2本の部品を作って1丁にするもの。作業は2倍になり、精密機械のような繊細さも求められます。必要とされる要素をすべて満たして、ようやく道具として機能するんです。そこが、いいんですね。とても面白いと感じます」「現在の製造工程では刃の仕上げや調節など繊細な作業を親方が行い、自分は熱い鉄を叩いて鋼付けを行う鍛接など、力をふるう仕事を任せてもらっています」と語る秋元さん。
「私が親方のもとで鍛冶を学びたいと思ったのは、鎚をふるう動作に無駄がなくシンプルで、最小の動きで最大の効果を出す姿を、すごいと思ったから。その動作は達人のものだと思いましたし、まるで、一途に同じことを繰り返して得られる到達点の一つだと感じました」
鍛冶について熱く語る秋元さんからは“チャレンジ精神”を感じます。「実は普段でも、ちょっとした冒険を楽しむようにしているんです。新発売の商品を試すとか、写真も説明もないメニューを頼んでみるとか。美味しければ感動するし、美味しくなくても、こんな味なのか! と逆の意味で感動するんです(笑)」
職人が育つ「ものづくりのまち」の特長とは?
「ものづくりに精通した職人がたくさんいます!」
「三条市には、製品を作る過程の最初から最後まで精通した職人が、親方をはじめ、たくさんいます。ものづくりについて、まさに“わかっている”人がたくさんいる地域だと思います」と秋元さん。「それに、同じ研修制度を利用して鍛冶の仕事に就いた仲間と集まって情報交換をするのも楽しいですね!」
「必要な道具がすぐ手に入るんです!」
「中古屋さんを覗いたら、この地域ならではの多彩な道具に出会うことができ、稀に掘り出し物を手に入れられるんです。あんな値段ではなかなか手できない道具に何度か出会いました!」と驚きの体験を語る秋元さん。「機械が壊れても、すぐに修理する人を呼べるし、道具も必要なものはすぐ揃います。とにかく道具と使い手の距離が近いんです。こちらの人がふだん使っているホームセンターも、鍛冶屋の目線で見ると、すごく充実していて、わくわくします。休みの日にもよく行くし、仕事のヒントになりそうな商品も多いんです」
「いろいろな現場を知ることができます!」
「鍛冶屋さんの工場を訪れれば、いろいろ見せてくれますし、産業観光としてのオープンファクトリーもあります。とにかく、ものづくりについて“見て学ぶ”ことがたくさんできると思います」
秋元さんは「手に職をつける」という言葉について「お金で買えない技術を得ること」と考えます。「なんでも続けるのは大変ですが、やればやるほどわかってくる。どんなことも自分の引き出しに入ってくる。向上心を持ってやり続けた結果、人と違った場所に立っている。それが職人の生き方だと思います」
三条市で生きていく未来
秋元さんが三条市の暮らしで感動したのは米の美味しさと、水の美味しさ。「水道水がこんなに美味しいなんて考えられなかった」と驚いたそうです、休日はマニュアル車で趣味のドライブを楽しんでいます。
今の目標は、いつか独立して、きちんとした職人となること。秋元さんは自分のように、三条市で職人を目指す人に伝えたいことがあります。「三条市は日本の鍛冶の産地の中でも新しいことに挑戦しよう、新しい考え方を取り入れよう、という雰囲気があると感じます。自分も他県から来て、研修制度によって地域に迎えられたわけで、そこには大きな可能性を感じます。ものづくりの場所として三条を選び、挑戦してみようと思う人に言いたいのは、自分の目で見て、感じたことに素直に従ってほしいということです」
鍛冶の仕事を通して人間的に成長し、身につけた技術が、地域の伝統を新しい未来につないでいきます。それは先人が築いてきた産業の歴史に自分の生きた軌跡を刻むことでもあります。日々の中でふるう鎚の音は遠い未来にも響き、製品という形になって、思いを伝えてゆくことでしょう。
今日の努力が明日に活き、人に役立つ道具を作ることで、自分自身も成長する。
そんな、ものづくりのまち三条で、秋元さんの冒険はこれからも続きます。