地域おこし協力隊から独立開業。三条・下田発イタリアン「クチーナ・トシキ」のシェフがこの地に惚れ込む理由
山々に囲まれた新潟県三条市下田に佇む、一軒家イタリアン「クチーナ・トシキ」。2022年11月のオープン以来、地元客を中心にじわじわとファンを増やしています。
三条市出身の店主の渡邉俊樹さんは、東京の一つ星イタリアンで10年以上修行を積んだ実力派。Uターン移住をして地域おこし協力隊として活動した後に、お店を開いています。「この地ならではのイタリアン」にこだわる渡邉さんに、三条に惚れ込む理由を伺いました。
三条・下田で採れた食材でつくる、ここにしかないイタリアン
クチーナ・トシキは「地産地消」を掲げるイタリア料理店です。昼はパスタランチを中心に、週末にはピザを提供しています。メニューは仕入れる食材によって日々変わり、天然舞茸のパスタ、下田産豚肉のボロネーゼ、自家製生ハムのピザなど、どれも食材が一級品。春は山菜、夏は鮎、秋はキノコ、冬は自然薯など、下田の季節の恵みを料理に活かしています。
こだわりは、地元生産者から直接仕入れる野菜や、道の駅で調達する食材など、できるだけ近くで採れたものを使うこと。現在10軒以上の契約農家から仕入れており、つながりを大切にしています。
敷居を感じさせないアットホームな雰囲気も評判で、子連れ客もウェルカムなのだとか。オープンから2年が経ったいま、地域に根差した店として愛されています。
地域おこし協力隊で生まれた、地元とのつながり
料理に情熱を注ぐ渡邉さんは、これまでに東京の麻布十番や銀座のイタリアンで研鑽を積み、さらに本場イタリアにも渡って腕を磨いてきました。この先ずっと都内にてシェフ人生を全うするという選択肢もありなのかもしれない――そう考えていたところ転機となったのは、父親の他界でした。
「大きな変化があったことで、今後の人生、どう生きたいのか真剣に考えるようになりました。そして、故郷である新潟に戻って、お店を開きたいと思ったんです」
そんな折、東京で開催された新潟Uターンフェアにて「開業するまでの準備期間中、地域おこし協力隊として活動する」という選択肢に出会います。積み上げてきたシェフ経験を活かしながら、地域の人たちとのつながりも深められる活動ができるのではないかと、渡邉さんの胸が躍りました。
「今後、三条市で店を開くにあたっては、生産者さんや地域の人たちとのつながりがマストです。しかし、私は東京での生活が長く、故郷である三条市の知人はほぼいません。そんな不安があったので、地域おこし協力隊は自分にぴったりの制度だと感じました」
さらに、地域おこし協力隊の仕事を終えた後、開業すれば補助金も受け取れます。渡邊さんは「移住のタイミングはいましかない」と確信を持てたといいます。
補助金100万円を活用して起業へ
2019年4月、渡邉さんは三条市に移住し、地域おこし協力隊としての活動をスタートさせました。所属したのはNPO法人ソーシャルファームさんじょうです。ここでは、農業部門にて地域活性のための活動を行いました。
たとえば、廃校となった小学校の家庭科室でイタリア料理教室を開講。毎回4品程の本格的なメニューを作り、地元食材の魅力を伝えました。また、地元農家の畑にて野菜作りのサポートを行うことで、土作りや収穫のタイミングなどのノウハウを習得。そのほか、地域のマルシェに出店し、将来の開業に向けたPR活動も行いました。
コロナ禍で活動が制限された時期には、秋田での生ハム作りや北海道でのチーズ作りなど遠征して学びを深め、臨機応変に活動し、狩猟免許も取得したそうです。「NPOの代表者が、『最終的に地域活性につなげるという目的があれば何でも応援するよ』と許可してくれたんです。本当に感謝しています」と渡邉さんは話します。
そして、地域おこし協力隊の活動を終えた後、念願のお店をオープン。三条市地域おこし協力隊起業補助金※は、店舗で使用するテーブルと椅子の購入に充てました。選んだのは、三条市のお隣である加茂市の株式会社イシモクが手がける「桐子モダン」シリーズです。桐製の家具は軽くてしなやか、柔らかな風合いがあり、お店を温かで居心地の良い雰囲気にしてくれます。
気になるのは補助金手続きの煩雑さですが、実際のところはどうなのでしょうか。渡邉さんに尋ねてみると「申請手続きは拍子抜けするほど簡単でした」とのこと。書類作成で迷ったときも担当者が丁寧にサポートしてくれるので安心です。
食を通して三条の魅力を伝え続けたい
三条市へ移住して今年で6年目。渡邉さんは自分の人生においてUターンを選んだことは正解だったと確信しています。そして、この地ならではの旬の食材を扱えることが、料理人としての喜びだと語ります。
「最初は東京時代に勤務していたイタリア料理店のように、キャビアなどの高級食材を使った料理を提供することも検討していました。でも、この土地で採れる豊かな食材を目の前にしたら、三条らしいイタリアンにしたいと感じたんです」
東京では47都道府県の食材が手に入りますが、この地だからこそ見えてくる食材との向き合い方があると気付いたそう。地域おこし協力隊時代にできた地元の人たちとのつながりを通じて、みずから山に入って山菜やキノコ取りにも親しむようになりました。渡邉さんはイタリア料理という形で、食材の宝庫である三条の魅力を表現し続けています。
最後に、渡邉さんに三条市で起業を考える人へのメッセージを伺いました。
「起業はできる・できないではなく、やるかやらないかの決断が大切です。三条市は起業のサポートが手厚く、地域の人々が温かいです。一歩を踏み出せば、必ず誰かが支えてくれますよ」
いきなり起業することが不安なら、渡邉さんのように地域おこし協力隊としてつながりを作ってから始めるのもひとつの方法です。「三条市で新しい挑戦をしてみたい」と少しでも思った方は、まずは気軽に問い合わせてみてください。