パンク・ロックのマインドで古着屋を運営。この場所に、多様な世界への入り口を。【Uターン経験者インタビュー】
三条市一ノ木戸商店街の古着屋「MYSTERY TRAIN Vintage & Thrift」の店主、佐藤生成さんは1979年生まれ、三条市の出身です。高校卒業後、英語を学ぶためにイギリスへ渡り、同時に趣味であるロックのバンド活動に取り組みます。その後ニューヨークに移住し、バンド活動を行いながら古着屋を運営。2010年代の中盤に三条へ戻り、2018年に現在の店舗を開店しました。
一歩店内に入れば、そこはロックテイストを感じさせる古着でいっぱいの空間。普段づかいの服はもちろん、革ジャンから雑貨まで、佐藤さんのセンスでチョイスした、バラエティあふれる商品が並んでいます。今回は、ロックをBGMにしながら、佐藤さんに古着にかける思いや、三条市の魅力など、様々なお話をうかがいました。
古着を着ることは文化を着ることだと思います
佐藤さんが古着に興味を持ったのは高校生のとき。パンク・ロックにはまり、革ジャンにあこがれたことがきっかけです。店内の商品にはパンクやロックン・ロールなど、佐藤さんの知識を活かしたものが揃っています。古着はどれもが1点もの。色の落ち方や、その時代の微妙なサイズ感など言葉にできない魅力があり、とくに佐藤さんが扱う古着は、佐藤さんが触れてきたロックのセンスを通したものになっています。佐藤さんは古着について、遠い昔に生きた人と「これが好き」という気持ちを、時代を越えて共有できるものと考えています。古着を着ることには「文化を着る」、「歴史を着る」という意味もあるのだと語ります。
「レコードショップの安いレコード棚をあさって、自分だけの宝物を発見する。他の人には合わないかもしれないけれど、自分の価値観にはバッチリと合う。そこに感動が生まれるんです。そんな自分にとってかけがえのない、大好きな音楽と出会う経験は、古着にも当てはまります。自分にとって大切な文化の価値を、自分でわかる。そういうものが大事だと思います。古着だけでなく、いい音楽を紹介したり、若い世代に自分が経験してきたことを伝えていけるといいですね」
ロンドン、ニューヨーク、そして一ノ木戸商店街
佐藤さんは高校卒業後、英語を学ぶためにロンドンへ。そこでバンド活動を行いながら、録音を学ぶ専門学校に進みます。その後、弟さんのアメリカ留学を支えることもあり、ニューヨークへ。ここでバンド活動を行うかたわら、友人に誘われて古着屋を手伝うようになります。2011年には独立開業し、ニューヨークで古着屋「MYSTERY TRAIN」を開店。店名は思い入れのある映画のタイトルからつけました。テナントビルの閉鎖などを乗り越えて7年間経営したのちに、ビザ切れや、企業の経営者であるお父様のご逝去が契機となり、三条市に戻ります。そして、一ノ木戸商店街でセレクトショップをしていた友人の店舗を引き継ぎ、「MYSTERY TRAIN Vintage & Thrift」の店名で2018年に古着屋を再スタートさせました。
「好きなこと、興味のあることをやるのが一番です。やりたいことをやらなければ、なかなか続かないと思います。商店街で店舗を営むことは、大手の会社に所属せず、自分たちでロックのアルバムを制作する、インディーズの感覚に近いものがありますね。いまや、なんでもモノを買うならコンビニエンスストアという感じですが、ロンドンやニューヨークなど大きな都市には、ずっと長く、その街にあるお店があって、みんなそこでコーラを買ったりしてましたよ」
一ノ木戸商店街をはじめ、近隣には古着屋の店舗が多く出店されています。その点について、佐藤さんはこう語ります。
「それぞれのお店に強みがあります。このお店でピンとくるものがなかったら、次のお店に行こう、というようにお客様の選択肢があるのはとてもいいことです。4軒も集まっていたら、欲しいなにかも見つかるのではないでしょうか。それぞれの店舗が集えば、大きな資本が作るショッピングモールのような機能に近づきます。個人の店舗がそうやって活動する姿には、インディーズの精神を感じます」
自分が自分であること。ちゃんとしてなくていい(笑)
佐藤さんは最近の三条市について、何かが変わりつつある予感のようなものを感じています。
「とにかく若い人ががんばっていて、集客につながっています。令和5年度の地域づくり表彰で三条市の㈱TREEの取り組みが国土交通大臣賞を受賞するなど、とてもよかったと感じますね」
佐藤さんが考える三条市の課題は、人が少ないことと、リタイアした人が多いこと。魅力としては、産業が盛んなこと、ラーメンをはじめとする独自の食文化があること、下田の豊かな自然の美しさ、高速道路や新幹線など地域の交通インフラの充実、そして意外とマニアックな音楽人がいたり、なかなか個性豊かな人に出会えること。
きっと佐藤さんご自身も、その個性豊かな人のひとりに入るのではないでしょうか。
最後に佐藤さんは、Uターンして故郷に帰った視点から、いまの日本の空気と個人の生き方について、こんなメッセージを残してくださいました。
「日本は、電車も時間ぴったり正確に来るなど、すごく、まっとうな国だと思います。でも、それでは生きづらい人もいると思います。生きているうえで、誰もが必ずしも多少迷惑をかけてしまうと思いますが、そういった中から大きく外れない程度で自分の自由にすることが重要な気がするんです。はじっこに居てもいいし、横道をゆっくり歩くのもいい。みんな、ちゃんとしてなくてもいいんだよ、と思います。だって、みんな一緒じゃ、面白くないじゃないですか(笑)」
ロックが鳴る店内で、山のようにある古着を一枚一枚吟味しながら、いまの自分にピッタリの宝物を見つける。その体験には、きっと、自分自身を再発見する楽しさもあるのです。気軽にお店に立ち寄って、お気に入りの服に出会ったり、佐藤さんと音楽の話をしたりすれば、いつもの日常もまた少し変わってゆくのかもしれません。
MYSTERY TRAIN Vintage & Thrift
三条市神明町 7-5 1階
金~月曜 13:00-19:00
電話 070-9006-1966
▼三条で暮らす。
▼三条市地域おこし協力隊 募集サイト