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まちの多様性の回復と新たな魅力の創出~前橋市マチスタントの取り組みから学ぶこと

こんにちは。
三条市で空き家相談員として空き家の課題解決に取り組んでいる地域おこし協力隊の佐藤芳和です。空き家相談員として市内を奔走する日々の傍ら、空き家対策・移住推進でエリアの活性化を行う「一般社団法人 燕三条空き家活用プロジェクト(以下「空活燕三条」)」の事業にも理事として携わっています。
さて、今回の記事では去る6月に行われた空き家・移住セミナーでの講演の様子をご紹介したいと思います。


第1回空き家・移住セミナーについて

空き家・移住セミナーは2022年の協力隊着任から続けており、今年で3年目となります。これまでゲストを招いた講演や空き家相談会、ツアーなどを実施してきました。今年度の第1回目はゲストに三条市出身で、前橋市にぎわい商業課の田中隆太さんをお招きし、前橋市のアーバンデザインや空き家・空き店舗活用の先進事例である「マチスタント」の活動をご紹介いただき、セミナーの後半では高校の同窓である滝沢市長とのパネルディスカッションも行われました。
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前橋市にぎわい商業課 田中隆太さん
当日の様子。田中さんの活動に興味のある多くの方にお越しいただきました

マチスタントとは~前橋のまちの様子を交えて

マチスタントは、前橋のまちなかで何かをやってみたい人と、空き家や空き店舗などのその人に必要なまちの空間資源のマッチングやサポートする取組で、「まちのアシスタント」という意味をもつ造語です。前橋市にぎわい商業課所属の職員3人が活動しており、その中心人物が田中さんです。庁舎でデスクワークに終始するのではなく、まちに飛び出し、人と人、人とまちの資源を繋ぐ、まさにリアルなまちづくりの実践者と言えます。私も今回のセミナーに先立ち、現地を田中さんに案内いただきました。講演の紹介と併せて、現地の様子を写真にてお伝えしたいと思います。
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マチスタントのロゴ。
ロゴタイプは前橋の中心市街地にある看板の文字を一つ一つ集めてできている

マチスタントの取組は、民間主体のまちづくりを推進するための指針として令和元年(2019年に)に策定された「前橋アーバンデザイン※1」のアクションプランの一つである「前橋版リノベーションまちづくり※2」がその土台・背景にあるそうです。策定を機に馬場川などの公共空間沿いや商店街にユニークな民間投資、新規出店が続いているとのことです。

前橋が変わるキッカケのひとつ「白井屋ホテル」
前橋アーバンデザインの成果のひとつである「馬場川通りアーバンデザインプロジェクト」を田中さんに案内いただく
マチスタントをきっかけに出店したパンとベーカリーのお店「はるぱん」。元貸本屋の空き家をリノベしている
「はるぱん」店内

まちに出て空き家・空き店舗と思われる物件をマッピングし、自治会や近隣への空き家に関するヒアリングから、オーナーへの意向確認するなどして積極的に物件の掘り起こしを行うこともあれば、まちなかで「何かしたい」方たちをアテンドしてまちを知ってもらい、事業内容や計画の相談に乗りながらエリアや物件の選定・マッチングなどを行うなど、非常に泥臭く活動を行っていることがわかります。これまでに物件オーナーへのヒアリングは約130件以上、事業希望の方へのまちなかツアーのアテンドは約160件以上行っており、そこから20件以上のまちなか開業に繋がったとのこと。アテンド数に比べると少ないと思われるかもしれませんが、開業自体がゴールではなく、実際に地元企業に就職した人もいれば、関係人口として前橋に遊びに来る人も一定数いると言います。

※1 前橋アーバンデザイン:まちづくりの方向性やお店づくりのためのガイドライン、モデルとなる幾つかのプロジェクトといったまちの将来像から、誰でもまちづくりに関わるため補助線、対話のキッカケとなるもの
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※2 リノベーションまちづくり:空き家、空き店舗、空き地等の既存の土地建物や活用されていない公共的な空間といった遊休不動産と地域の潜在的な資源「ヒト・モノ・資産」を組み合わせ、小さくスピーディーな民間投資のアクションを同時多発的に起こし、まちの活性化や地域課題の解決地域コミュニティの再生等を図ることを目的としたもの
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アーバニストとして暮らす

田中さんからお話の中で「勝手にアーバニズム※3」という活動・考えをご紹介いただきました。この活動は、まちへの小さな愛のある介入を通じて、道行く人への気遣いやおもてなしをするなどのパブリックマインドに満ちた実践と言えます。ご自身も「アーバニスト※4」を名乗り、自らまちなかで実践している「勝手にアーバニズム」な取組もご紹介いただきました。また、「勝手にアーバニズム」と「マチスタント」は、「STREET FURNITURE EXHIBITION※5」や「マチスタントの仲間マーケット」といったイベントへと発展し、その開催を通じてコミュニティ創出や出店者のネットワーク、育成などの支援にも繋がったそうです。

まちなかを流れる川沿いの柵に設置されたスタンディングテーブルと田中さん。川沿いでおいしい一杯が飲めそう
商店街内のストリートファニチャー。身近なものにも創意工夫が見られる

アーバニズムについて少し掘り下げて考えてみます。アーバニズムには、都市で「生きること」と都市を「つくること」の感覚が土台にある考え方で、「自身の生活するまちを自分事として考える」と言い換えられます。以前投稿した「まちを耕す拠点をつくる」(2023.3.15)でも述べましたが、これからは行政が主体となって道路などのインフラ整備や開発なども盛んに行われ、まちをどんどん成長させていくというような時代ではなく、人口も税収も減り、限られた予算をどう配分するかを考えなければならず、これまでのようなに行政に任せきりというような考えでは立ち行かなくなってしまいます。そうは言ってもスケールが大きく、何ができるかわからないという人もいるでしょう。まずは自らが住む家のことを考えてみてください。壊れているところはないか。草木は荒れていないか。家財道具は散らかっていないか。掃除はできているか。まちは住まいや商いといった生活の場の集合ですから、身の回りの小さな気遣いやケア、メンテナンスが「自身の生活するまちを自分事として考える」のキッカケとなり、一人一人の「まちへの肯定感」を向上させるのではないでしょうか。

前橋のまちづくり会社「前橋まちなかエージェンシー」が商店街内に構える拠点。カフェとデザイン雑貨店も併設している
まちなかの貸本棚

※3 アーバニズム:社会学者ルイス・ワース(1887-1952)によって定義・提示された「都市における生活様式」という考え方
※4 アーバニスト:アーバニズムの担い手。①都市計画の専門家 ②都市に住み、都市の生活を楽しんでいる人(『大辞泉』小学館)
※5 STREET FURNITURE EXHIBITION:まちに自作ストリートファニチャーを持ち寄るアーバニズムアクション。まちに関わるクリエイター達が自作したストリートファニチャーを群馬県前橋市のまちなかを流れる広瀬川周辺に点在させ、クリエイターの創造性にスポットを当てつつ豊かな空間を楽しむ市⺠参加型回遊式展覧会
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いかに豊かな日常をつくり、まちの魅力を高めるか

エリアを盛り上げる賑わい創出のため、興行、集客を目的としたイベントを頻繁に開催することがあります。そうしたイベント自体は良いですが、集客数と開催数が目的化すると、準備や運営、集客できるコンテンツ探しにリソースを割くことになり、関わる人や地域の疲弊を招くこともしばしばあります。しまいには開催費用捻出のための補助金の取得にそれ自体が目的化し、自治体の持続可能性を削ぐ恐れもあります。
集客だけを目的としない、魅力ある豊かな日常と居心地の良い空間を創出するにはどうすればよいか。イベントも集客だけを目的にするのではなく、まちに根付く可能性のあるプレイヤーの発掘や育成の場とすることで、その延長にプレイヤーの出店が期待できます。小さなコンテンツの集積が持続可能なまちに必要な多様性に繋がり、まちの魅力を増幅するのでしょう。前橋市のマチスタントや私たちが行う空き家を通じたまちづくりは、まさにその多様性の回復であり、その先にある中心市街地の活性化・整備は需要の有無とは関係のない、まちの基礎であり、土台の構築と言えるのではないでしょうか。

セミナーや視察で得た前橋市での学びを吸収し、これからのより良い三条のまちのあり方は何かを引き続き考えて良ければと思います。
田中さん、そして前橋でお会いした皆様、ありがとうございました!

まちなかを歩けば色々な人に声をかけられる田中さん

\毎月第2水曜日、「空き家・移住の日」!/
三条市神明町5-3 三-Me.にて15時から開催しています。
空き家や移住に関する、お悩み、ご相談に是非お越しください!

【一般社団法人燕三条空き家活用プロジェクト】
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