東京での修行から戻り、和菓子店七代目店主に。三条は「なんでもあるまち」。
年間10万個を販売する「いちご大福」が名物の和菓子店「かつぼ屋」は、明治初期の創業。120年以上の歴史を持つ老舗です。七代目店主の山崎晃史さんは横浜、東京でそれぞれ2年間の修業を積んだ後、新潟県三条市の一ノ木戸商店街のお店に戻り、後継者となりました。
明るく落ち着いた雰囲気の店内、そのショーケースには季節を彩る和菓子の数々が並び、その隣にはプリンやシュークリームなど洋菓子のケースも。次々に目当てのお菓子を購入するお客様が訪れる、人気のお店です。
今回は三条を離れた修行の経験や、ふるさとに戻って感じたこと、あらためて思う三条市の特色など、様々なお話をお聞きしました。
住み込みの修行で育んだ、職人の感性
両親の後ろ姿を見て育った山崎さん。お店には親戚の職人さんも働いていて、幼稚園の頃には自分も将来職人になるのだと、ごく自然に思っていたそうです。高校卒業後の2000年に問屋さんの紹介で横浜のお店で2年、その次に東京の店舗で2年と、4年間の修業を行いました。徒弟制度が生きていた時代のこと、師匠と同じビルに住み込み、朝から晩までお菓子を作る日々を送りました。東京修行の際、師匠から「これをやってくれ」と指示を出され、やり方を教えてくださいとたずねたところ「目の前で何度もやっているのになぜできない」と怒られました。その後、山崎さんは師匠の仕事を観察し、自主練習に励むようになります。
「技術というものは、向上心を持ってやる気を出すことで身につけることができます。ただ、それ以上に大切だったのが、師匠と一緒に暮らすことだったんです。師匠は何を考えているんだろう、何を感じているんだろう、何が好きなんだろう、何が良くて、何が悪いのだろう、そう考えることで、職人としての感性が叩きこまれていったのだと思います」
山崎さんは休日になるとデパートや有名な店舗に行き、勉強を重ねます。しかし、そこで感じていたのが、東京は住む場所ではないな、という思いでした。
「どこに行っても一人になれないという感じだったし、何をするにも電車が必要になる。でも電車が昔から苦手だったんです。うちの店で2年やったら新潟で1番になれる、という師匠の言葉を信じて2年間、東京で修業しました」
三条に戻って始まった、新たな挑戦の日々
山崎さんは2004年に東京から三条に戻り、自分の家で初めて仕事を行ったとき、それまでの修行で使っていた道具とも材料とも違い、同じ分量で同じ味が出ない、という経験をします。それが、職人として飛躍するきっかけとなりました。
「そのときに考えたのはまず、こんなとき師匠ならどうするだろう、ということでした。そして次に、自分ならどうするんだろう、と思ったんです、それは、自分の個性が見えてきた瞬間でした。その後、10年くらいかけて個性を確立させていったように思います」山崎さんは、2012年の店舗リニューアルに合わせて洋菓子の販売も実現。このときは自分が美味しいと感じた洋菓子のお店に修行に行って技を習得しました。そして2020年に七代目店主となります。
「洋菓子へのチャレンジについては、もう少しすると和菓子の職人である“僕なりのお菓子” が見つかるかもしれません。その途中という気がしています。店主になってからは、それまでやっていたお菓子の卸しをやめて、製造販売に専念することにしました。目の前のお客さんに、より良いものを売ることに専念するためです。それから従業員と一緒にお店をどう盛り上げ、発展させるかを考えた結果、給料を上げました。みんな喜んで、やる気を出してくれて、青年会議所など社外のことで忙しいときには、社長が外出したらその分まで自分が働けるのに、という感じで“遠慮なく行きたいところへ行ってください”と言われました(笑)」
地域を愛する経営者たちの姿を身近に感じて
山崎さんは燕三条青年会議所副理事長や、三条祭りの大名行列を取り仕切る三条祭り若衆会の会長を務めました。知りあいに誘われたのが燕三条青年会議所に入るきっかけでした。
「仕事が終わった夜の7時から10時まで、燕三条がどうなったらよくなるか、地域の経営者が集まって会議をしているんです。その姿を見て、自分も地域に何ができるんだろうと思いました」
山崎さんは広報委員長として活躍し様々なメディアで青年会議所の活動を紹介、一時は年間360日ほども青年会議所の仕事をしていました。若衆会の会長時代には、誰もが来やすいように、毎年5月15日の三条祭りが平日の場合、休日に移動しての開催を働きかけたこともあります。その日程変更案は、神事のため困難と断られました。しかしその後、三条市の企業や学校は5月15日が休日になります。そのときは開催日の休日化を実現した地域の先輩たちの凄さを感じたそうです。
山崎さんは三条市の魅力について、こう語ります。「三条市は東京にも2時間ほどで行けるし、社長が多い土地柄もあって食事も美味しいし、ショッピングや映画などの娯楽も市内で気軽に楽しめる。温泉もあれば、キャンプ場もある。“なんでもある”ことが、三条市の特長のように思います」
お菓子で季節を表現する和菓子、その製餡技術について大きな自信を持ち、お茶会にも用いられる生菓子に注力する職人の山崎さんは、従業員を大切にする経営者でもあります。
取材のあと、七代も続くのはすごいですね、と山崎さんに声をかけると「このへんは七代目が多いんですよ」と意外な答えが。それは、地に足のついた生活が長く続く地域の証なのかもしれません。ある意味、ほんとうに“なんでもある”まちなのです。そこには、あなたの新しい未来もあるのかもしれません。
かつぼ屋
新潟県三条市林町1丁目1-13
電話 0256-33-1005
定休日 月曜日営業時間 9:00~18:00
URLhttps://katsuboya.jp/access/
▼三条で暮らす。
▼三条市地域おこし協力隊 募集サイト